先日ある大手の保険会社での研修時、受講生からこんな質問がありました。
"仕事のできない部下がいて困っています。
実は彼は以前の部署でも仕事ができなくて、私のところに回されてきたような人材なんですよ。
彼が異動してきた当初から心配で大丈夫かなって思って気をつけていたんですが、
案の定ミスを連発し、迷惑の掛けられっぱなしです。こういう人材はどうしたらいいですか?"
この質問を受け、次のような返答をしました。
"最初から否定的な目で彼を見ていませんでしたか?
「仕事ができないんだろうな、何か失敗をするんじゃないかな」といった目で彼を見ていませんでしたか?
人間はものを見るときにありのままをみようとせず、みたいように見てしまう傾向があります。
これは自己正当化、つまり自分は正しいんだという裏付けが欲しくなるのです。
同じ考えを持った者同士がグループを形成するのに似ています。
同じ意見やものの見方を持った者同士だと、自分たちが正しいんだという認識が深まり居心地がよくなります。
「この部下は仕事ができない」という見方を持ってしまうと、無意識レベルでその証拠集めにいこうとしてしまいます。
結果、彼の悪い部分ばかりの情報を取り込んでしまいます。
彼が持ついい部分を見つけることができなくなってしまうのです。
是非彼を肯定的に受け止め、いい面も見つけ出し、活かす機会を提供してみてください。"
以上のような人間の陥りやすい傾向は、クリス・アージリスが提唱した「推測の梯子」の理論です。
推測の梯子とは「自分が観察した部分的な情報を、自分の思い込みや、決めつけで判断し、
さも検証された事実であるかのようにとらえてしまうこと」です。
研修後、一ヵ月くらい経過したときに以下のようなメールをいただきました。
"研修の後、なんとか彼にも戦力になってもらいたいと思いミーティングを持ちました。
彼のやりたいこと、やってきたこと、できること、強み、弱みについて話しましたところ多くの発見がありました。
彼の職歴から意外な分野に精通していることが分かり新しいマーケットの開拓にチャレンジすることになりました。
現在彼は、まるで別人のように、活き活きと仕事をしています。
コミュニケーションも増え、いろんな提案もしてくれるようになりました。
そして私自身、彼の素晴らしい点が沢山発見できるようになりました。
ちょっと意識をかえただけで、こんな変化がおきるとは、驚きです。"
研修でお伝えしたことで、気付きを得て実践をしていただけて、さらに大きな学びがあったことと思います。
組織は個人の集合体です。
まずは個人個人の素晴らしさを発見し、輝きを取り戻す。
元気になった個々人がさらに相乗効果を発揮し始める。
最終的に組織全体が元気になっていく。
こんな支援ができることを目指して頑張っていきます。